マーケティング部があること、施策の数が多いことは、マーケティングが機能していることとは一致しません。組織として機能しているかを確かめる物差しとして、研究で使われてきたのが「市場志向」です。
この記事のポイント
- 市場志向は、市場の情報を「集める・広める・それをもとに動く」の3つがそろった組織の状態
- 3つのうち、最も途切れやすいのは「動く」。情報が集まり共有されても、商品・施策・予算が変わらなければ機能していない
- 市場志向を高めるのは、経営陣の支援、組織の仕組み、部門の境界を越える人の行動
市場志向の3つの要素
- 市場志向は、1990年に2つの研究で定義が示されました。私たちは、そのうち組織の「行動」で捉える定義を使っています。
- 01 情報生成|顧客・競合・市場の変化について、情報を集める
- 例:顧客インタビュー、営業の失注理由の記録、競合の調査
- 02 情報普及|集めた情報を、部門をまたいで社内に広める
- 例:顧客の声を営業・開発・経営で共有する定例、調査結果を誰でも探せる場所に置く
- 03 情報反応|その情報をもとに、商品・施策・計画・予算を変える
- 例:失注理由をもとに商品の優先順位を変える、振り返りの結果で翌期の予算配分を変える
- Kohli & Jaworski(1990)は、市場志向を上の3つの行動で定義しました。同じ年に Narver & Slater(1990)は、顧客志向・競合志向・部門間の連携の3つで定義しています。どちらも、マーケティング部の活動にとどめず、組織全体の動きとして捉えている点が共通しています。
「動く」が最も途切れやすい
- 3つの要素は、前の要素がそろっても、次が自然に起きるとは限りません。私たちが支援の現場でよく見るのは、次のような途切れ方です。
- 集めたが、広がらない|顧客調査のレポートが担当部署の中で止まり、営業や開発が読んでいない
- 広がったが、動かない|顧客の声は定例で共有されているが、商品の優先順位や予算配分は前年のまま
- 動いたが、戻らない|施策を変えたが、その結果が次の調査や戦略の見直しに戻っていない
- 共同研究(矢倉・黒澤,2025)でも、部門の境界を越える人の行動は、情報を集めて広めることにはつながっていましたが、情報をもとに動くことにはつながっていませんでした。動くところは、意思決定・会議・予算の仕組みで支える必要があります。
- 研究の解説を読む →
市場志向を高める3つの条件
- Jaworski & Kohli(1993)は、市場志向を左右する要因として、経営陣の姿勢、部門の間の関係、組織の仕組みを挙げました。私たちの調査でも、この3つを確かめています。
- 01
経営陣の支援
- 経営陣が、顧客と市場の情報をもとに意思決定をする姿勢を示している。調査では、市場志向に直接つながっていました。
- 02
組織の仕組み
- 評価・会議・情報共有・予算の仕組みが、市場の情報で動くようにできている。調査では、市場志向に直接つながっていました。
- 03
部門の境界を越える人
マーケティングの仕組みとの対応
- なぞるは、マーケティングを14の仕組みとそのつながりで捉えています。市場志向の3つの要素は、次の仕組みが担います。
- 情報生成|01 市場理解、05 顧客マネジメント、09 測定・学習
- 情報普及|C マーケティングナレッジ、D データ、A 組織・ガバナンス(会議体)
- 情報反応|02 マーケティング戦略(資源配分)、03 商品・価値、B マーケティングオペレーション(計画・予算)
- 市場志向が低い組織では、仕組みそのものはあっても、仕組みどうしがつながっていないことが多くあります。たとえば、測定・学習の結果が、マーケティング戦略の資源配分に戻っていない、といった途切れです。
- マーケティングの全体像を見る →
自社で確かめる6つの問い
- 印象で答えず、資料・画面・会議の記録で確かめてください。
- 情報生成
- 直近12か月に、顧客調査を1回以上実施している
- 営業の失注理由を、選択式で記録し、月ごとに集計できる
- 情報普及
- 過去の調査・施策の結果を、1か所で検索できる
- 失注理由・競合情報を、マーケティングと営業で共有する定例の場がある
- 情報反応
- 振り返りの結果が、次の計画・予算の資料で引用されている
- 商品企画書に、顧客調査の結果が引用されている
- この6つは「マーケティングシステム 確認チェックリスト」の一部です。
- 確認チェックリストを受け取る
市場志向を、日々の行動にする
出典
- Kohli, A. K., & Jaworski, B. J. (1990). Market Orientation: The Construct, Research Propositions, and Managerial Implications. Journal of Marketing, 54(2), 1–18.
- Narver, J. C., & Slater, S. F. (1990). The Effect of a Market Orientation on Business Profitability. Journal of Marketing, 54(4), 20–35.
- Jaworski, B. J., & Kohli, A. K. (1993). Market Orientation: Antecedents and Consequences. Journal of Marketing, 57(3), 53–70.
- 矢倉和雄・黒澤友貴(2025)「組織の市場志向形成におけるバウンダリースパナー行動とマーケターの越境的役割」『マーケティングレビュー』Vol.7 No.1
関連するページ