AIを使えば、どの会社も同じように市場の情報を集め、同じような企画を下書きできるようになりました。そのとき差がつくのは、その会社にしかない知識を、顧客に選ばれる理由に変えられるかどうかです。なぞるは、この考え方を Knowledge-Based Marketing と呼んでいます。
この記事のポイント
- マーケティングとは、知識を価値に変えること。人・組織・市場の3つの知識を結び、選ばれる理由をつくる
- 知識は「なぞる → 問う → 結ぶ → 実装する → 学ぶ」の5つの流れで、選ばれる理由に変わり、また知識として蓄えられる
- AIは施策の1つとして並べず、この流れを速く回すための仕組みとして組み込む
Knowledge-Based Marketing とは
- 人や組織が積み重ねてきた知識と、市場・顧客・社会から得る知識を結び、選ばれる理由に変えていくマーケティングです。その結果から学んだことを、また組織の知識として蓄えます。
- Marketing is turning knowledge into value.
- マーケティングとは、知識を価値に変えることである。
- この言葉は、2004年に Ian Chaston が著書『Knowledge-Based Marketing』で使い、知識の管理をマーケティングの実務に生かす考え方として示しました。なぞるは、この考え方を受け継ぎ、AIで知識の集め方・使い方が大きく変わったいま、組織の内側の知識と市場の外側の知識を結ぶ方法として組み立てています。
なぞる対象は、3つの知識
- 知識は、マーケティング部の中にあるとは限りません。なぞるは、次の3つを対象にします。
- People Knowledge|人が持つ知識|経験、勘、判断の基準、専門性。例:ベテランの営業が、商談の最初の5分で見ていること
- Organizational Knowledge|組織が蓄えてきた知識|歴史、文化、ブランド、顧客データ、過去の成功と失敗。例:創業以来、断ってきた依頼とその理由
- Market Knowledge|市場から得る知識|顧客、競合、市場、社会、文化、トレンド。例:顧客が比べている、業界の外の代わりの手段
- 人が持つ知識の多くは、言葉になっていない暗黙知です。野中郁次郎と竹内弘高は、暗黙知と形式知が行き来することで、組織の知識が生まれると説明しました(Nonaka & Takeuchi, 1995)。なぞるの仕事の多くは、暗黙知を、組織で使える言葉と型にすることです。
なぜ、知識が競争優位になるのか
外の情報は、どの会社も同じように手に入る
- 市場や競合の公開情報は、AIを使えばどの会社も短い時間で集められます。差がつくのは、その情報を自社の知識と結んで、どう読むかです。
- 02
組織に固有の知識は、真似されにくい
- 価値があり、希少で、真似されにくく、代わりがきかない経営資源が、持続的な競争優位の源泉になるとされています(Barney, 1991)。知識をその中心に置く考え方もあります(Grant, 1996)。創業からの判断の積み重ねや、現場の観察から生まれた知識は、外からは見えず、すぐには真似できません。
- 03
学ぶ仕組みがあると、知識は積み上がる
- 市場志向の組織は、市場から学び続ける組織でもあります(Slater & Narver, 1995)。施策の結果を次の判断に戻す仕組みがあれば、使うほど知識が増え、他社との差が開いていきます。
知識が、選ばれる理由に変わる5つの流れ
- KNOWLEDGE LOOP
- 01 TRACE|なぞる|人・組織・市場に蓄えられた知識を、事実から見つける
- 02 QUESTION|問う|「なぜ選ばれているのか」「何が本当の強みか」を問い直し、知識の意味を見いだす
- 03 CONNECT|結ぶ|組織に固有の知識と、顧客・市場・社会を結び、選ばれる理由にする
- 04 ACT|実装する|ブランド・商品・顧客体験・コミュニケーション・組織とAIに落とす
- 05 LEARN|学ぶ|市場の反応を、新しい組織の知識として蓄え、01に戻る
- この流れは、学んだことが次になぞる対象になる循環です。
知識を動かす仕組み
- 5つの流れを続けるには、知識を置く場所、知識を運ぶ人、知識を使う道具が要ります。なぞるが捉えるマーケティングの14の仕組みのうち、次の4つがこれに当たります。
- C マーケティングナレッジ|会社がマーケティングについて何を知っているか。AIが参照する、会社のマーケティングの記憶
- D データ|各仕組みで生まれるデータをつなぐ
- E テクノロジー・AI|ほかの仕組みを動かす道具
- A 組織・ガバナンス|誰が意思決定をし、誰が部門の境界を越えて知識を運ぶか
- AIは施策の1つとして横に並べず、この流れ全体を速く回すために組み込みます。生成AIを使える会社にすることより、組織が持つ知識を、誰もが使い、学び、選ばれる理由に変え続けられる状態をつくることを目指します。
- マーケティングの全体像を見る →
3つの領域とのつながり
- なぞるのマーケティングナレッジは、この考え方を3つの領域に分けて開発しています。
- 01 調査|市場の知識を、事実から集める(なぞる・問う)
- 02 戦略設計|知識を結び、選ばれる理由を設計する(結ぶ・実装する)
- 03 組織開発|知識が組織の中で運ばれ、使われ、学びとして戻る状態をつくる(学ぶ)
- 組織開発の記事では、市場の情報を集め・広め・それをもとに動く「市場志向」と、部門の境界を越えて知識を運ぶ人(バウンダリースパナー)、日々の行動にした50のマーケティングパターンを解説しています。
- 市場志向とは →
- マーケティングは、部門の境界で機能する →
- マーケティングパターン →
自社で確かめる5つの問い
- 自社にしかない知識を、3つ挙げられるか。それは顧客にとって、どんな価値になっているか
- その知識は、特定の人の頭の中に置かれたままになっていないか(文書になっているか)
- 直近1年で、顧客の声をもとに、商品・施策・計画を変えた例があるか
- 施策の結果と、判断の理由を残す場所と書式があるか
- その知識を、AIが参照できる場所と形で置いているか
- 確認チェックリストを受け取る
- Skills サンプルを受け取る
出典
- Chaston, I. (2004). Knowledge-Based Marketing: The 21st Century Competitive Edge. SAGE Publications.
- Nonaka, I., & Takeuchi, H. (1995). The Knowledge-Creating Company. Oxford University Press.
- Barney, J. (1991). Firm Resources and Sustained Competitive Advantage. Journal of Management, 17(1), 99–120.
- Grant, R. M. (1996). Toward a Knowledge-Based Theory of the Firm. Strategic Management Journal, 17(S2), 109–122.
- Slater, S. F., & Narver, J. C. (1995). Market Orientation and the Learning Organization. Journal of Marketing, 59(3), 63–74.
- 矢倉和雄・黒澤友貴(2025)「組織の市場志向形成におけるバウンダリースパナー行動とマーケターの越境的役割」『マーケティングレビュー』Vol.7 No.1
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