PREFACE
PREFACE
2026年10月21日刊行の『AI時代に差がつく マーケティング思考力トレーニング』より、「はじめに」を全文公開します。
数あるマーケティング書籍の中から本書を手にとってくださりありがとうございます。
最初に、本書のテーマである「マーケティング思考力トレーニング」の背景にある筆者の取り組みについて紹介させてください。
「マーケティングトレース」という言葉を初めて世に出したのは、2018年に筆者の1人である黒澤が書いた1本のnoteでした。タイトルは「マーケティングトレース(マーケターにとっての筋トレ)とは何かについて」(https://note.com/tomokikurosawa/n/n9ec466396774)です。
黒澤は、2011年からマーケティングの仕事に携わってきています。キャリア初期は、マーケティングの全体像を学ぶことに苦労をしました。インターネット広告運用・アクセス解析など特定のスキルを学ぶことはできても、マーケティングの全体像に関しては、本を読む、講演を聞くといった学ぶ機会は増やせても「自分ゴト化して仕事に活かす」ことに苦労していました。
「何かマーケティングの全体像を学ぶ仕組みがないか……」と悩んでいた際に「トレース」という概念と出合いました。
デザインやアートの世界では、UIトレース、模写をするといった優れたお手本を模倣して学ぶ学習手法が根づいています。そこからヒントを得て、模倣からマーケティングを学ぶトレーニングとして「マーケティングトレース」を考案しました。
マーケティングトレースは、黒澤が個人で行っていた思考力トレーニングでしたが、コミュニティを立ち上げ、月に一度のペースで「ワークショップ」を実施するようになり、参加した方が自分で「トレースしてみた」アウトプットをnoteやSNSで発信していただき、その輪が広がっていきました。
その過程でまとめたのが、前著『マーケティング思考力トレーニング』(フォレスト出版、2020年)です。
本書は、黒澤が実践してきたマーケティングトレースを土台に、矢倉がマーケティングリサーチ会社と事業会社で積み重ねてきた経験を重ねて書きました。
矢倉は、マーケティングリサーチ会社で調査やデータ分析に携わったあと、事業会社に移り、顧客データの分析、マーケティング戦略や施策の企画・実行、組織内でのデータ活用推進に取り組んできました。社会人大学院では、組織の中でデータ活用が広がる過程について研究しました。
マーケティングリサーチ会社では、調査や分析の結果から得た示唆をクライアントに伝えることが仕事の中心でした。一方、事業会社では、分析結果をもとに具体的な施策を考え、社内の関係者と実行まで進めます。そこで、分析から得た示唆をもとに、何を企画し、どう実現するかまで考える力の重要性を感じるようになりました。
黒澤と矢倉は、それぞれ異なる立ち位置からマーケティングのキャリアを歩んできているため、2人の経験・考えを組み合わせて、マーケティングの可能性を探れたらと思い「共同研究」を2024年に開始しました。
2人でいつも話してきたのが、「マーケティング思考を身につけている人を増やすためにはどうすればよいか」「マーケティング思考が根づいた組織を増やすためにはどうすれば良いか」といったテーマです。
これらの問いに答えるために2人で話し合ってきたことをまとめたのが本書『AI時代に差がつくマーケティング思考力トレーニング』です。
生成AIが身近になり、市場や競合の情報を集め、整理し、戦略や企画の案をつくるまでにかかる時間は短くなりました。私たち自身も、日々のマーケティングの仕事や本書の執筆で生成AIを活用しています。
一方で、AIのアウトプットによる限界も感じることが増えてきています。
以前よりも簡単に戦略っぽいものがつくれるようになりましたが、「これは誰の、どんな課題を解決するための企画なのだろう……」と、首を傾げたくなるような資料を目にする機会も増えました。
本書のテーマは、AIを使いこなす方法を学ぶことではなく、AIを活用して「人間のマーケティング思考力を磨くこと」です。AIによって業務を効率化する、楽をするだけの発想ではなく、人が何を考えるべきかを見極め、自分で市場や顧客が求めることを判断する力が、これまで以上に大切になってくると考えたからです。
そこで、2018年から続けているマーケティングトレースの取り組みを、生成AIが身近になった現在の環境に合わせて見直し、あわせてマーケティング思考力そのものの定義を整理し直しました。
本書は5つの章で構成されています。
第1章では、マーケティングの全体像を確認した上で、本書が考えるマーケティング思考力を構成する「顧客理解力」「戦略設計力」「企画構想力」を説明します。
第2章では、3つの力を鍛える方法として、AIを活用したマーケティングトレースの基本的な進め方を紹介します。
第3章では、東京ばな奈を中心に、実在する企業を題材として、情報収集から仮説づくり、次の企画を考えるまでの思考過程をたどります。
第4章では、カスタマージャーニー、歴史から読み解く戦略、収支シミュレーションなどの観点から、マーケティングトレースでつくった仮説や企画をさらに深めます。
第5章では、マーケティング思考力の学び方、組織での実践事例をご紹介します。
そして、
昨今、マーケティングはどうも難しく語られすぎているように感じています。
SNSを開くと、マーケティング理論の正しさ、目新しさの議論を見かけることが増えました。
さらに、AIの登場によって、より効率的な手法にとらわれたマーケティング論が増えていることに違和感を抱いています。
私たちは、マーケティングの本質を、シンプルに、かつ多くの人が仕事の中で使える、使いたいと思えるものにしていきたいと考えています。
本書は、基本的な思考の型を身につけるための「マーケティング実践書」であり、基本に立ち返りたいときに開いていただきたいと想い、書きました。
「マーケティングとは何か」「マーケティングの奥深さとは何か」「AIが出てきても普遍的なマーケティング思考力とは何か」を皆さんと一緒に探っていけたらうれしいです。
それでは、マーケティング思考力トレーニングをはじめていきましょう。
黒澤友貴・矢倉和雄『AI時代に差がつく マーケティング思考力トレーニング』(フォレスト出版、2026年)「はじめに」より